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天神町テラス
知的障害者が表現活動をする小さな劇場(1階)と賃貸住宅(2階)の、小規模な木造の複合建築。
敷地は、ジョギングや散歩を楽しむ人々の歩行者専用の緑道と、それに交差する静かな道路に面した角地にあり、周囲は閑静な第一種低層住居専用地域となっている。1階は「障害者就労支援施設」で、知的障害者達が活動する音楽会や人形劇の劇場であり、また、障害者達自身が営むカフェやレンタルスペースでもある。そこは、緑道を行き交う人々の日常へ向かって開かれている。(その活動は大きな音響を発するため、条件としては矛盾するのだが、周囲や上階に対し十分な遮音性能が必要とされた。)また2階も、緑道に対して大きく開かれた、一般の「賃貸住宅」である。居室間の建具を開いて一つながりにすると、事務所としての利用も可能となる。
1階も2階もほとんどワンルームであり、それらが遮音され重ねられている。とはいえ、単にそれらを積み重ねるのではなく、知的障害者達の活動、行き交う人々、賃貸住宅の居住者、緑道に表れる季節の移ろい、そういった動的で生きいきとしたものが、それぞれにどのように向き合うべきなのか。風致地区の規定によって四周に壁面後退をとりながら、緑道や道路側には大屋根の軒下に1間分ほどの「吹き放ち」空間をつくり、そういったものを繋ぎ合わせるような場所にできないかと考えた。そこは劇場からあふれた観客の桟敷になったり、カフェのテラス席になったり、緑道の一部になったりと、内外の間を揺ぐような、ほどかれた場所である。そして、その高さの中間には木製のルーバー面を差し込み(一部は藤棚)、吹き放ち空間を落ち着いた居場所にしているが、同時に、緑道の木々に対して大きく開いた2階の住宅へ侵入する視線を遮ぎりながら、居住者の視線を階下の障害者の活動へと緩やかに繋いでいる。その軒天は銀色に塗装され、反射した緑陰を屋内へと引き込む。1階の内部から緑道のほうを見ると、その吹き放ちの部分の柱や建具枠、そして緑道の電柱、樹木、標識といった垂直の要素と、垂れ壁や床の舗装、手摺、擁壁、緑道といったそれぞれの水平要素が、相互に混じりあって境界を曖昧にしており、居場所を感じながらも緑道へと繋がっていく感覚を覚える。
この吹き放ちによって生み出された空間は、上下階の人々やその活動、道行く人、緑道の移ろいなどの、それぞれが向き合って関係性をつくるための「装置」とでもいうべき場所だ。この建築は常に「向こう側」との関係性の中を動き、いわゆる「舞台」や「座敷」と同じように、それ自身の単独では完結しない。
1階平面は緑道に平行に配置されているのに対し、2階平面は大樹に正対し、上下階の外壁面にはズレが生じ、周囲に馴染みながらも少しシンボリックな佇まいとしている。この建築が、行き交う人々や知的障害者達の日常の中に溶け込みつつも、住宅でも福祉施設でもないような、「特別な場所」として現れてくれるようにと計画した。
撮影:矢野紀行